国家公務員・経験者採用試験
国家公務員試験では2006(平成18)年度から人事院が公募手続き・教養試験・論文試験などを実施し、その後各府省で専門能力の検証や採用面接を行う「経験者採用システム」が導入された。2012(平成24)年度からは国家公務員試験の全面リニューアルにともない、「係長級・事務」の経験者採用試験として統合。2024(令和6)年度には省庁別に実施するものを含め、全部で10種類の経験者採用試験が人事院のしくみを利用して行われた。
この枠組みでの採用試験はいずれも総合職相当で、これまでのキャリアの専門性およびその具体的中身が重視される。敷居はかなり高い感じで、最終的に採用される人数も基本的にそう多くない。
2016(平成28)~2019(令和元)年にかけては、人手不足に悩んでいた国税庁がこの経験者採用試験を通じて国税調査官の大量採用を実施、毎年200人を超える最終合格者を出した。その後は減っていたが、2024(令和6)年には再び採用増に転じ、最終合格者が久しぶりに3桁に乗った。
なお、近年ではこの経験者採用のシステム(秋に1次選考を実施)とは別に、各省庁が独自の日程、内容で社会人経験者の選考採用(総合職・一般職)を行い、人材を確保するケースが非常に増えているので注意!
※2024年度実施例:経験者採用試験(係長級・事務)
(会計検査院・人事院・警察庁・金融庁・デジタル庁・財務省・国税庁・文部科学省・農林水産省・環境省)
・受付期間:7/22~8/13
・受験資格:大学や大学院の卒業、修了から2年経過 職歴2年以上など
・試験内容:
1次=(9/29)基礎能力試験(教養試験)・経験論文
2次=(11/2~4のいずれか1日)個別面接・政策課題討議
※2024年度実施例:国税庁経験者採用試験(国税調査官級)
・受付期間:7/22~8/13
・受験資格:大学や大学院の卒業、修了から8年経過 職歴8年以上など
・試験内容:
1次=(9/29)基礎能力試験(教養試験)・経験論文
2次=(11/2~4、9~10のいずれか1日)個別面接
3次=(11月下旬~12月上旬)個別面接
<試験の特色>
・基礎能力試験(教養試験)+経験論文が基本だが、外務省(書記官級)ではもちろん外国語の試験も。
・基礎能力試験は30問すべて必答/2時間20分。一般知能分野が24問で一般知識が6問。
・経験論文は「これまでの取組と成果」と「これから取り組みたいこと」を述べるという、ごく標準的なスタイル。毎年変わっていない。
◆基礎能力試験
【国家公務員経験者採用・基礎能力試験(2023)】
問題番号 | 出題内訳 |
---|---|
1~3 | 文章理解【現代文】(内容合致2+空欄補充1) |
4~8 | 文章理解【英文】(内容合致4+並べ替え1) |
9~14 | 判断推理(対応関係・位置関係など) |
15~16 | 空間把握(図の重ね合わせ・立体の辺の数) |
17~22 | 数的推理(場合の数・年齢算・速度算・売買算など) |
23~24 | 資料解釈(グラフ・表) |
25~30 | 時事・一般知識 |
※全体の問題数は30問と少ないものの、判断推理・数的推理・空間把握・資料解釈で16問と半数を占める。このジャンルである程度得点できるように準備しておきたい。また、英文の問題数も5問で、全体に占めるウェイトは意外に大きい。英文の読解力に自信のある人には明らかに有利。問題の大半が知能分野(文章理解や数的・判断など)で、知識分野の問題は最後の6問のみだが、時事的な問題が多いのが特徴。
同じ1次試験日程の総合職試験と同じ問題が使われるので、地方自治体の経験者採用試験に比べると問題は段違いに難しい。準備をせずに臨んで最低基準点(9点/30問)や合格点(9~14点/30問)を確実にクリアするのは厳しいのではないか。事前の準備・研究は必須だろう。
※基礎能力試験の詳しい解答・解説は コチラ にあります。(リストの下の方です。)
◆経験論文
共通実施の「経験者採用試験(係長級・事務)」の論文テーマは以下の通り(2023年)。内容的にはここ数年、ずっと同じだ(ただし、細かい表現は変わることもある)。
「①これまでの職務経験における取組と成果を、直面した困難とその克服策等に触れながら、具体的に述べてください。なお,特に論理的思考力、企画立案能力、対人折衝・調整能力をそれぞれ発揮したものを取り上げ、客観的な事実(いつ、どこで、だれと、何を、なぜ、どのようにして等)を明確にしてください。
②①で述べた取組と成果をどのように採用後の業務に生かせるか、受験申込みの際に届け出た第一志望府省及び第二志望府省のそれぞれについて述べてください。ただし、第二志望府省がない場合は、①で述べた取組と成果を、どのように第一志望府省採用後の業務に生かせるか述べるとともに、どのように国民全体の奉仕者として公務に生かせるかということについても述べてください。」
共通実施分に加わらず、独自に経験者採用試験を実施している省庁では経験論文課題はそれぞれに異なるが、おおむね「これまでの取組と成果」と「これからどう活かすか/これから取り組みたいこと」を述べさせる形式だ。
経験論文としてはごく標準的なテーマ(内容)。ただ、細かい字数制限がない(答案用紙1枚の両面を自由に使用可)ので、それなりに充実した分量の答案を事前に作成・準備しておく必要がある。
※経験論文の評定の参考にするため、第1次試験当日に所定様式での「履歴書」の提出が求められるので、こちらに事前記入する内容にも細心の注意を払う必要がある。
◆政策課題討議
2次試験で行われる。まず課題に関してレジュメを作り個別に発表、それに続けてグループ討議を行う……という流れだ。「プレゼンテ―ション試験」と「集団討論」を組合せたような独特の実施形態である。
年度 | 区分 | 申込者数 | 最終合格 |
---|---|---|---|
2024 | 10省庁(係長級・事務) | 316 | 40 |
総務省(係長級・技術) | 104 | 10 | |
総務省(係長級・技術) | 26 | 8 | |
外務省(書記官級) | 131 | 13 | |
国税庁(国税調査官級) | 580 | 104 | |
農林水産省(係長級・技術) | 15 | 1 | |
国土交通省(係長級・事務) | 55 | 5 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 27 | 3 | |
観光庁(係長級・事務) | 45 | 2 | |
気象庁(係長級・技術) | 52 | 17 | |
2023 | 10省庁(係長級・事務) | 569 | 41 |
総務省(係長級・技術) | 39 | 7 | |
外務省(書記官級) | 178 | 18 | |
国税庁(国税調査官級) | 644 | 63 | |
農林水産省(係長級・技術) | 27 | 1 | |
国土交通省(係長級・事務) | 70 | 4 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 44 | 5 | |
観光庁(係長級・事務) | 94 | 2 | |
気象庁(係長級・技術) | 34 | 11 | |
2022 | 13省庁(係長級・事務) | 592 | 53 |
総務省(係長級・技術) | 16 | 2 | |
外務省(書記官級) | 215 | 14 | |
国税庁(国税調査官級) | 856 | 53 | |
農林水産省(係長級・技術) | 35 | 1 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 58 | 5 | |
観光庁(係長級・事務) | 100 | 5 | |
気象庁(係長級・技術) | 50 | 20 | |
2021 | 12省庁(係長級・事務) | 609 | 62 |
総務省(係長級・技術) | 34 | 3 | |
外務省(書記官級) | 144 | 10 | |
国税庁(国税調査官級) | 896 | 94 | |
農林水産省(係長級・技術) | 45 | 4 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 90 | 9 | |
観光庁(係長級・事務) | 124 | 3 | |
気象庁(係長級・技術) | 40 | 13 | |
2020 | 12省庁(係長級・事務) | 834 | 57 |
総務省(係長級・技術) | 45 | 9 | |
外務省(書記官級) | 191 | 17 | |
国税庁(国税調査官級) | 1171 | 142 | |
農林水産省(係長級・技術) | 47 | 3 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 113 | 16 | |
観光庁(係長級・事務) | 203 | 8 | |
気象庁(係長級・技術) | 59 | 16 | |
2019 | 12省庁(係長級・事務) | 748 | 34 |
総務省(係長級・技術) | 48 | 7 | |
外務省(書記官級) | 174 | 14 | |
国税庁(国税調査官級) | 1198 | 227 | |
農林水産省(係長級・技術) | 61 | 1 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 96 | 10 | |
観光庁(係長級・事務) | 143 | 5 | |
気象庁(係長級・技術) | 76 | 15 | |
2018 | 11省庁(係長級・事務) | 843 | 37 |
総務省(係長級・技術) | 63 | 14 | |
外務省(書記官級) | 184 | 17 | |
国税庁(国税調査官級) | 1287 | 249 | |
農林水産省(係長級・技術) | 102 | 3 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 142 | 6 | |
観光庁(係長級・事務) | 218 | 7 | |
気象庁(係長級・技術) | 82 | 20 | |
2017 | 12省庁(係長級・事務) | 642 | 40 |
外務省(書記官級) | 172 | 17 | |
国税庁(国税調査官級) | 1328 | 250 | |
農林水産省(係長級・技術) | 69 | 5 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 146 | 8 | |
観光庁(係長級) | 179 | 7 | |
気象庁(係長級) | 100 | 15 | |
2016 | 13省庁など(係長級・事務) | 851 | 32 |
外務省(書記官級) | 200 | 23 | |
国税庁(国税調査官級) | 964 | 223 | |
農林水産省(係長級・技術) | 61 | 5 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 151 | 11 | |
観光庁(係長級) | 174 | 3 | |
2015 | 15府省(係長級・事務) | 743 | 39 |
外務省(書記官級) | 151 | 30 | |
国税庁(国税調査官級) | 199 | 29 | |
農林水産省(係長級・技術) | 50 | 4 | |
経済産業省(課長補佐級) | 82 | 0 | |
国土交通省(係長級・技術/地方なども含む) | 126 | 11 | |
観光庁(係長級) | 95 | 4 | |
2014 | 14府省(係長級・事務) | 1061 | 72 |
外務省(書記官級) | 157 | 25 | |
会計検査院(係長級) | 6 | 3 | |
国税庁(国税調査官級) | 128 | 18 | |
農林水産省(係長級・技術) | 65 | 3 | |
経済産業省(課長補佐級) | 171 | 1 | |
国土交通省(係長級・地方など含む) | 186 | 14 | |
観光庁(係長級) | 235 | 2 | |
2013 | 5省庁(係長級) | 626 | 19 |
外務省(課長補佐級) | 114 | 0 | |
外務省(書記官級) | 212 | 14 | |
農林水産省(技術) | 61 | 1 | |
経済産業省(課長補佐級) | 380 | 0 | |
国土交通省(技術) | 50 | 3 | |
海上保安庁(技術) | 19 | 1 | |
2012 | 金融庁 | 91 | 1 |
外務省 | 116 | 4 | |
財務省 | 95 | 0 | |
農林水産省(事務系) | 241 | 1 | |
農林水産省(技術系) | 67 | 1 | |
経済産業省(課長補佐級) | 271 | 0 | |
経済産業省(係長級) | 309 | 1 | |
海上保安庁 | 16 | 0 | |
防衛省 | 95 | 0 | |
防衛省 | 131 | 1 | |
2011 | 金融庁 | 110 | 0 |
外務省 | 66 | 3 | |
財務省 | 114 | 1 | |
農林水産省(事務系) | 330 | 1 | |
農林水産省(技術系) | 73 | 1 | |
経済産業省 | 279 | 0 | |
国土交通省(事務系) | 351 | 3 | |
国土交通省(土木系) | 66 | 2 | |
国土交通省(砂防系) | 21 | 1 | |
防衛省 | 131 | 1 | |
国税庁(東京国税局) | 109 | 20 | |
国税庁(関東信越) | 34 | 5 | |
外務省(専門職) | 111 | 8 | |
皇宮警察 | 363 | 11 | |
2010 | 金融庁 | 139 | 0 |
外務省 | 89 | 2 | |
財務省 | 276 | 2 | |
農林水産省(事務系) | 294 | 1 | |
農林水産省(技術系) | 98 | 1 | |
経済産業省 | 438 | 2 | |
外務省(専門職) | 93 | 17 | |
皇宮警察 | 413 | 9 |