経験者採用試験の現状

 2000年代以降、「(民間企業等)経験者採用」「社会人採用」などと呼ばれる区分が各地の自治体の採用試験に導入されるようになり、30代(場合によってはそれ以上)くらいで企業などでの職務経験をもつ人が、公務員に転職する道が広がってきました。その背景には、

①社会環境の変化にともない、地方公務員にも新たな経営・サービス感覚が求められていること
②2007~2010年頃に生じた団塊世代の大量退職への対応
③長く続いた新卒の採用抑制によって人数的に薄くなっていた中堅層職員の補充


 ……などさまざまな事情があります。
 首都圏では団塊世代の大量退職が続いていた2000年代後半(とくに2007~2008年頃)、東京特別区が経験者採用試験を新設したこと、横浜市・川崎市などが事務職で社会人経験者の大量採用に踏み切ったことなどが契機となり、地方公務員の経験者採用試験に対する社会的認知は一気に高まりました。2010年頃からは団塊世代の大量退職が一段落して採用者数が減り、一方で民間の雇用環境の悪化から受験者数が急増したために経験者採用試験は極端に「狭き門」化。受験者にとって厳しい時期がしばらく続きました。その後、2010年代半ばからは景気回復・雇用情勢の好転にともなって競争は緩和され、チャレンジしやすい状況が生まれています。
 「経験者採用」試験の中身は、自治体によってさまざまなのですが、総じて以下のような特徴があります。

▼社会人経験者採用試験では教養試験+論文+面接(プレゼンなども含む)の組合せが一般的。事務職(行政職)では、ふつう専門試験は課されない。(技術職・専門職の場合には、専門試験が課されたり、特定の国家資格などが要求されたりするケースも。)
※2010年代の終わり頃から、教養試験の内容を従来型の問題からもっと平易な社会人基礎試験、SPI3(その他民間の検査)などに変更する動きが急速に広がった。現在ではかりに教養試験と銘打っていても、その中身は非常に多様化しているので、注意が必要。
▼論文試験は、自分の職務経験をアピールする経験論文と一般的なテーマについて論述する課題式論文に大別される。(だいたいどちらかだが、両方書かせるケースもある。) ▼受験資格として年齢の他、多くの場合、民間企業などでの一定期間以上の勤務経験が求められる。(必要な年数は自治体によってさまざまだが、比較的多いのは「5年以上」。)勤務先や勤務年数に関する条件がかなりややこしい場合もあるので、自分に受験資格があるのかをしっかり確認する必要がある。なお、公務員としての勤務期間を算入できるか否かについても、自治体により異なるが、近年は認めるケースが大半になってきた。
▼1次試験の日程を見ると、9月の日曜日に実施するケースが最も多い。しかし、6月・10月に1次試験を行う自治体も少なくないし、まったく独自のイレギュラーな日程での試験もある。近年は1年に2回実施したり、通常の日程以外に「早期日程」を新設して実施したりするケースも多い。
▼経験者採用試験は毎年必ず実施されるとは限らない。また、区分・受験資格・試験内容などが変更されることも多いので、つねに最新情報を集める必要がある。

 年齢に関する条件は自治体によってさまざま。2003年に市川市が初めて「年齢制限撤廃」採用試験を実施し、また2008年の社会人経験者採用試験で横浜市などが実質的な年齢上限撤廃に踏み切ったのを皮切りに、他の主要自治体も次々にそれに倣い、定年年齢までは受験可能としている自治体も多いです。(むろん、年齢制限が撤廃されていても、高年齢層の合格は非常に厳しいと覚悟しなくてはなりませんが…。)

 なお、「経験者採用(社会人採用)」とは別に、2020年度からはとくに「就職氷河期世代」を対象とする採用試験も全国的に広く実施されるようになりました。また、最近はとくに職歴を条件とせず、大学新卒者・社会人の両方が受験できるタイプの試験が新設させるケースも増加。選択肢はいっそう多様になってきています。